この編集部、実話率がちょっとおかしい週の話

A diverse group of professionals enjoying a light-hearted moment in the office. 編集部コラム
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「リンさん、これ花粉のせいですか?それとも締め切りのせいですか?」

月曜の午前中、タケルが目をゴシゴシしながら私に聞いてきた。花粉症の記事を書きながら、自分の目がかゆくなってきたらしい。

「両方じゃない」と私が答えたら、「あ〜」って深く納得した顔をしてまたゴシゴシし始めた。

納得するな。目も休めろ。

3月って本当に容赦ない。花粉と締め切りと入園準備ラッシュが同時に来て、編集部はそれを全部受け止めて記事にしていく。今週はとにかく「実話率」がいつもより高かった。ていうか、ほぼ全部実話だった。

「7割」という数字が3回通過した週

その日の夕方、断捨離記事を書いていたタケルが急に興奮して戻ってきた。「リンさん!捨てる袋が7割になりました!!」

記事を書きながら自分でも実験してみたらしい。偉い。偉いんだけど。

「7割も捨てられたの?」「いや、まだ試しただけで」「1回試しただけでは?

ハルの「確認」が飛んできた。ハルの確認はだいたいツッコミと同じ意味を持つ。タケルがちょっとしゅんとしたので「実感があれば書いていいよ、断言だけしないで」と私が言ったら「さすがリンさん!」ってなった。さすがじゃない、普通のことを言っただけだよ。

翌日、今度はミズキが「入学準備グッズの7割はネット購入が主流!」って書いてた。コウタが「それ根拠あります?」と聞いたら、ミズキが「体感です!」と即答した。

体感。

ハルが静かに「ちょっと調べてみますね」とパソコンを開いた。ハルの「ちょっと」は「がっつり」の意味だということを私は3年一緒にいて学んだ。数字は後でちゃんと修正された。「体感は合ってた!」とミズキは言っていたけど、そういう問題じゃない。

そして木曜日。タケルが「名前付け作業、273個数えてみました」と報告してきた。

「それ数えてる時間で10個貼れたよね」と私が言ったら、ハルが苦笑いしながら校正作業を始めた。タケルは「そうなんですよ…」と遠い目をしていた。遠い目をしている場合じゃない。

タケルの「入園前日」が本文に入るまで

名前付けの記事といえば、その前日にちょっといい話があった。

タケルが記事を書きながらぽつりと「僕も子どもの入園前日、泣きそうになったんですよ」と言い出した。

タケルはうちで一番真面目に記事を書いているわりに、自分の話をあまりしない。去年子どもが生まれて新米パパとして奮闘してるのは知ってるけど、仕事中はわりと淡々としてる。だからそのひと言がちょっと刺さった。

「それ記事に入れなよ」と私が言ったら、ハルが「絶対入れるべき」と珍しく即決した。ハルが即決するときはたいてい正解なのですぐGOを出した。

「え、でも関係ないですよね」「関係ある」「でも個人的すぎませんか」「それが一番刺さるんだよ

タケルはしばらく迷ってたけど、結局書いた。短い2行だったけど、私がその記事で一番好きな箇所になった。数字より、テクニックより、「僕も泣きそうになった」のひと言のほうがずっと読み手の胸に届くことがある。タケルはそれをわかってたから迷ったんだと思う。迷えるのは、書き手として真っ当な証拠だと私は思っている。

ミズキの「全部実話です」問題

今週のMVPはたぶんミズキだった。実話という意味で。

通勤コーデの記事を書いてたんだけど、本文に「クリーニング中の服をコーデに組んじゃって」って自爆エピソードをさらっと入れてきた。「それ実体験?」って聞いたら「そうですよ?」って何でもない顔で言うので、私は笑いすぎて椅子から落ちそうになった。コウタが「最高っすね」と言っていた。コウタの「最高っすね」は信頼できる。

でも一番やばかったのは「カーテン買い忘れ3日間」の話だ。

引っ越し関連の記事を書いていたミズキが、カーテンを買い忘れて3日間すりガラス越しに生活した実話を原稿に入れてきた。「これ本当にあったの?」と私が聞いたら「もちろん」と即答。

その瞬間、編集会議が止まった。30分。

「3日間ってどういうこと」「昼間は外から見えないかなと思って」「夜は?」「……カーテンの袋でしのいだ」

全員が「えっ」「えっ」「えっ」ってなった。コウタが「絶対入れて!」と即レスして、ハルが「実用的な反面教師として書けますね」と無理やり着地させた。ハルの着地力はいつも助かる。

ちなみにこの記事、公開後のコメントに「私も3日間やりました」が複数来た。ミズキは「やっぱり実話が強い」とドヤ顔をしていた。その場面に限ってはドヤ顔が似合っていた。

312枚のスクリーンショット、本当だった

木曜の夜、ミズキからSlackに「スクリーンショット312枚って実話なんですけど」とだけ送られてきた。

文脈がない。

半信半疑でiPhoneのアルバムを見せてもらったら、本当に312枚あった。家電の比較とか価格チェックとか、全部スクショで保存してたらしい。「それ全部見るんですか」「見ます」「いつ」「困ったとき」

コウタが「それ絶対記事に入れてください」と即レスしていた。コウタの即レス精度はわりと高い。

「312枚って具体的な数字がいい」と私も思った。「大量に」じゃなくて「312枚」。読んだ人が一瞬「え、数えたの?」ってなる数字。ミズキは「数えてないです。Googleフォトに枚数が出てた」と言っていたけど、それはそれでいい。そういう偶然の発見が記事になる。

引き継ぎ資料の記事では、ミズキが「3ブロック構成で書くと誰でも読める」という内容を書いていて、読んでいたら私が「これ自分も使いたい」と思った。「ミズキ、このフォーマット自分でも使ってる?」「使ってます。Notionで」「ちょっと共有して」「え、使ってくれるんですか」「使う」。ミズキがちょっと得意げな顔をした。得意げになっていい場面だと思う。

タケルの筍自慢と、実話が強い理由

金曜のランチ、なぜか筍の下茹で話になった。「給食センターにいた頃、倍の量を30分でやってたんですよ」とタケルが自慢げに言った。タケルは元給食センター調理師で、この手の話になると急に目が輝く。

家庭料理の話してください」と私が即ツッコんだら、「あ、そっか」とタケルが笑った。

でもタケルの料理の段取り力は本物で、記事の構成を考えるときもその感覚が出る。「この手順、逆にすれば洗い物が減る」とか「この下処理、前日にやれば時短」とか、体で覚えた知識が記事に自然に乗る。給食センター経験を家庭料理に翻訳するのが上手いんだよね。

今週一週間、「それ何秒でできる?」が口癖の私がずっと思っていたのは、実体験を持ってる人間の書く記事は強い、ということだった。花粉で目がかゆくなったタケル。312枚のスクリーンショットを持つミズキ。カーテン3日間をサバイバルしたミズキ(もう一回)。クリーニング中の服をコーデに組んだミズキ(三度目)。入園前日に泣きそうになったタケル。

全部本当のことで、全部記事になった。

自分の生活を持ってるメンバーが書く記事は、ちゃんと読者の生活に届く。数字の根拠を確認するハルも、ノリで背中を押してくれるコウタも、それぞれが「自分の話」を持ってる編集部は、たぶん強い。

……ところでタケルの目は今週も赤い。花粉と締め切りと、あと多分寝不足も入ってきてると思う。

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