えんぴつ36本・さつまいも爆発・名前シール実話。今週の編集部、通常運転です

A group of adults engaged in creative work and discussion around a table in an office setting. 編集部コラム
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「リンさん、聞いてください!えんぴつ36本、スタンプで20分で終わりましたよ!」

タケルが興奮気味に報告してきたのは、確か火曜日の午後だった。モニターから目を離して振り返ると、彼が本当に嬉しそうな顔をしている。子どもが生まれてから、こういうときの顔が一段と輝くようになった気がする。

「……それ、記事にして」

私の返しは一言だった。でもタケルの顔がさらに輝いたから、まあよかったのだろう。

これが今週のスタートだった。

「えんぴつ36本をスタンプで20分」という最高の発見

タケルが興奮していたのは、子どもの名前付けの話だ。入園・入学シーズンが近づくと、毎年「名前付けが地獄」という悲鳴がSNSに溢れる。鉛筆1本1本に手書きで名前を書く、あの作業。去年まで手書きでこなしていたタケルが、ついに名前スタンプに切り替えて、36本を20分で終わらせた。

「もうね、達成感が違うんですよ。ポン、ポン、ポンって。手首のスナップで決まる感じ」

「わかった、わかった」と私は言いながら、「その熱量そのまま原稿に入れて」とだけ伝えた。段取り力を記事に活かすのが得意なタケルだから、これは絶対にいい記事になると思った。

横で聞いていたミズキが「それ、オーダーメイドスタンプのサービスも調べておきます」と即座に動き出して、コウタが「俺も気になる、うちの実家もそれで悩んでたな」と乗っかった。

一方ハルは「インク補充の頻度と、スタンプの耐久年数についても一言入れると親切かもしれませんね」とさらりと言った。毎回こういうところで一手先を読んでくる。校正校閲担当として、本当に抜かりがない。

さつまいもは「オーブン一択」で決着がついた

問題が起きたのは、タケルの別の原稿だった。

「さつまいもはレンジで爆発する」という一文を、彼が冷凍食材の記事にぶち込んできた。

それを見たハルが、静かに、しかし確実に、全力NGを出した。

「タケルさん、この表現、読者が実際に試して爆発させてしまう可能性があります。注意書きか、別の調理法への誘導が必要ではないでしょうか」

タケルは「でも実際爆発するんですよ? うちでも実証済みで」と食い下がったが、ハルは揺るがない。「事実であっても、読者が実害を受ける可能性がある表現は要検討です」。

「そもそもレンジで爆発するのを前提にした記事ってどうなんだって話でもあるしな」とコウタが笑いながら言って、タケルも「……まあ、そっか」となった。

結果、「さつまいもはオーブン一択」という正しく安全な情報に書き換えられて事件は収束した。タケルが「給食センターのときも、さつまいものレンジ加熱は禁止でしたよ、そういえば」と付け加えて、「じゃあ最初からそう書いてよ」という視線が全員から集まっていた。

ミズキの「実話疑惑」と29分の証明

今週、ミズキが書いた記事が2本あった。e-Taxの記事と、名前シールの失敗談の記事だ。

e-Taxの記事で、ミズキは「二刀流スマホ入力」という技を紹介していた。スマホ2台を使ってe-Taxを効率よく入力する、というやつ。原稿を読んで、私は「それ実際やったの?」と聞いた。

ミズキは一瞬だけ黙って、「……やってみます」と言った。

翌日、「やってみました!29分でした!」と報告が来た。

編集部が爆笑した。「29分」という数字の具体性が、全員のツボに入った。「29分て」「ちゃんとタイム計ったんだ」「最後の1分は何してたの」という声が飛び交い、その日の午後は妙に空気が明るかった。午後3時のコーヒーの匂いと、キーボードを叩く音と、誰かの笑い声が混ざった、あの感じ。

名前シールの失敗談のほうは、コウタが「これ絶対実話でしょ」とミズキに突っ込んだ。子どもの上履きに名前シールを貼ったら斜めになって、やり直そうとしたらシールが足りなくなった、みたいなエピソードだった。

ミズキは1秒間だけ沈黙して、「……否定はしない」と返した。

私は笑いながら「それ、記事の一番いいエピソードじゃないですか」と言って、もっと掘り下げるよう伝えた。ライターが本当に経験したことって、読んでいる人に伝わるんだよな、絶対に。どこかが少し違う空気になる。

「3フォルダ制」を書いていたミズキが4フォルダだった件

年度末の書類整理記事で、ミズキは「3フォルダ制」という整理術を紹介していた。「要対応・保留・完了の3つだけで管理するんです。シンプルでしょ? これだけで机の上がスッキリするんですよ」と説明していたとき、私がミズキの画面をちらっと見たら、フォルダが4つあった。

「ミズキさん、4つ作ってますよ?」

ミズキの手が止まった。「あ」という声が出た。

コウタが「これだからズボラは……」と笑い、ミズキは「いや待って、1個は一時保管用で、概念上は3フォルダなんです」と言い訳した。でも結局その1個を削除して、3フォルダに統一していた。

ズボラを自称する人間が書くズボラ術には、ときどきこういう罠がある。でもそれがリアルだから、読者に刺さるんだとも思う。完璧な人が書く効率術より、失敗したことがある人が書く効率術のほうが、なぜかずっと信頼できる。

タケルのホワイトボード調理場事件と、アスパラの意外な結末

タケルが衣替え記事の段取りをホワイトボードに書き始めたとき、私は最初「ちゃんと整理してるじゃん」と思った。

でも見ていると、工程図が給食の配膳ラインみたいなレイアウトになっていた。「夏物→洗濯→乾燥→圧縮袋→収納」という流れが、完全に調理場のフローチャートの書き方だった。

「タケル、それ編集部じゃなくて調理場だから」

タケルは「でもわかりやすいでしょ?」と言った。確かにわかりやすかった。私は何も言えなかった。コウタが「逆にこれで記事作れそう」と言い出して、それはそれで面白いなと思った。

別の日、タケルが書類整理の記事を書きながら「うちの引き出しもヤバいな……」と実況していた。ハルが「タケルさん、まずご自身の引き出しを確認してから書いてください」と静かに言って、タケルが「あ、はい」と素直に従った。

そしてアスパラの話。タケルが「アスパラは生のまま冷凍するのが正解だぞ!」と力説し始めたとき、ハルが「……その情報、本当に正しいですか?」と即座に確認を求めた。

タケルが一瞬固まった。「え、あ……調べます」と言って、しばらくスマホを見ていた。

「……合ってました」

ハルが「そうでしたか」と言って、それで終わった。ハルに確認されて合ってたときのタケルは、なんか誇らしそうな顔をする。それがちょっと好きだ。給食センター仕込みの知識が、たまにこうして炸裂する。

AIプロンプト「十分リアル論争」の顛末

ミズキが年度末の報告書をAIで効率化する記事を書いていて、プロンプト例を入れていた。「このくらいの粒度で書けば、誰でも使えると思うんですよね」とミズキは言っていた。

私が原稿を読んで、「AIプロンプト例、もうちょっとリアルにして」と赤を入れた。

ミズキは「いや十分リアルですって!」と言い返した。これは割と珍しい。ミズキがはっきり反論するのは、自分が自信を持って書いたときだけだから。私も少し引いて「そっか、じゃあ一回このままでいい」とだけ言った。

でも翌朝、こっそり書き直してあった。

私は何も言わなかった。ミズキも何も言わなかった。でも確かに、書き直した後のプロンプト例のほうが断然よかった。具体的な職種名と、実際の業務っぽい文脈が入っていて、読んで「あ、これ使える」と思える仕上がりになっていた。

こういう、言葉では負けを認めないけど行動では認める、みたいなやりとりが、この編集部にはわりとある。私もたぶんそうだと思う。それが心地いい。

来週も、誰かが何かを爆発させたり、実話を暴かれたり、フォルダを数え間違えたりするんだろうな。そう思いながら、今日もモニターの画面を閉じた。

えんぴつ36本をスタンプで20分。それだけでこんなに嬉しそうな人が隣にいる編集部、わりと悪くないと思っている。

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