子どもが小学校に上がった最初の春、妻から「毎朝お弁当って正直どうやって続けるの?」と聞かれたとき、ぼくは「任せて」と言い切った。給食センターで何百人分もの食事を毎日同時進行で回してきた。並行作業なら得意分野のはずだった。
が、実際に家の台所で週末作り置きをやってみたら、2時間かけて3品しか完成しなかった。フライパンを洗いに行ったり、切り忘れた玉ねぎを途中で刻んだり、次の食材を探して冷蔵庫を漁ったり。プロの現場と家庭の台所は、道具の数も導線も冷蔵庫の高さも全部違う。最初の週はそれなりにへこんだ。
その失敗を踏まえて、家庭用にゼロから段取りを設計し直した。結果、今では週末2時間で安定して5品を作れるようになった。平日の朝はこの5品からピックアップしてご飯に詰めるだけ。お弁当の準備が15分以内に収まっている。
材料と費用の目安(5品分・4〜5日分)
まず買い物の話をしておく。5品分の食材費は近所のスーパーで合計1,200〜1,500円台に収まる。
- 鶏もも肉 300g:約280円
- ほうれん草 1束:約100円
- さつまいも 中1本:約120円
- ブロッコリー 1株:約150円
- 玉ねぎ 1個:約60円
調味料(醤油・みりん・砂糖・カレー粉・酢・バター・オリーブオイル・塩)は常備品を使う。かつおぶしは1袋3g入りのものが1袋。合わせて100円以下。
1日3品使うとして、1食あたりの副菜コストは100〜150円台。コンビニ弁当の1/3以下で、中身の管理もできる。
まず全部切る:10分の仕込みで段取りが決まる
給食センターで最初に叩き込まれたのは「調理前の仕込みに時間をかけろ」だった。センターでは1,000食の調理に5〜6時間かかるとして、そのうち1時間以上が純粋に仕込みの時間だった。材料が全部切れて並んでいれば、あとは加熱器具を回すだけ。段取りの9割はここで決まる。
家庭でも同じで、最初の失敗の根本原因は「切りながら火を入れた」ことだった。途中で「あ、ほうれん草まだ洗ってない」となった瞬間、コンロの火が無駄に動いている。
5品分の切り仕事(所要時間:8〜10分)
- 鶏もも肉 300g:一口大(3〜4cm角)に切る。皮はそのまま残す。皮から脂が出るので油なしで焼ける
- ほうれん草 1束:流水でよく洗い、4cm幅に切る。根元の赤い部分は甘みがあるので捨てない
- さつまいも 1本:皮ごと1cm厚の半月切り。皮に甘みと栄養が詰まっているので剥かない
- ブロッコリー 1株:小房に分ける。茎の部分は薄切りにすればそのまま使える。捨てると損
- 玉ねぎ 1個:繊維に沿った薄切り。縦方向に切ると炒め時間が短くなり、甘みも出やすい
急がなくていい。ここで焦ると指を切る。経験済みだ。全部切り終わったら材料を種類別に分けてまな板の端に並べ、調味料も先に計量して小皿に出しておく。これだけで「あ、醤油どこ」というムダな動きが消える。
0〜30分:オーブンを先に動かして並行作業スタート
並行作業の最初の一手は、最も加熱時間が長い仕事をオーブンに任せること。ここで躊躇すると後半のタイムラインが全部ずれる。
オーブンを180℃に予熱しながら(約5分)、さつまいもを天板に並べる。クッキングシートを敷いておくと後片付けが格段に楽になる。25〜30分焼く。タイマーをセットしたら即コンロへ。
コンロ:鶏の甘辛煮(所要時間 約15分)
フライパンに油なしで鶏もも肉を皮目を下にして並べ、中火にかける。油なしでいい理由は、皮から脂が出てくるから。フタをせず4〜5分焼く。皮がキツネ色にこんがりしてきたら裏返す。
合わせ調味料:醤油大さじ2・みりん大さじ2・砂糖小さじ1。これを加えてフタをし、弱火で10分煮る。フタを開けたくなるけど開けないほうがふっくら仕上がる。センターでも「蒸らし中は開けるな」はルールだった。
フライパンを離れられる10分の間に、電子レンジを使う。
電子レンジ:ほうれん草のおかか和え(所要時間 約5分)
切ったほうれん草を耐熱容器に入れ、ふんわりラップをかけて600Wで3分加熱。取り出してラップを外し、粗熱を少し飛ばしてから手で水けをしっかり絞る。ここで水けが残ると保存中に傷みやすくなるので、気持ち強めに絞る。醤油小さじ1・かつおぶし1袋(3g)で和えれば完成。
加熱3分+絞って和えて2分の計5分で1品できる。レンジが空いたら次の仕事をすぐ入れる。このリズムが並行作業の核心だ。
30〜60分:フライパンを使い回して2品仕上げる
鶏の甘辛煮が仕上がったら保存容器に移し、フライパンをキッチンペーパーでさっと拭く。洗わなくていい。旨みが残っている分、次の料理が美味しくなる。給食センターでは「フライパンを洗う時間があったら次の仕込みをしろ」と言われていた。
コンロ:玉ねぎのカレーマリネ(所要時間 約8分)
フライパンにオリーブオイル大さじ1を熱し、玉ねぎを中火で炒める。透明になってしんなりしたら(約5〜6分)、カレー粉小さじ1・塩ひとつまみ・酢大さじ1を加えて30秒ほど混ぜる。
これは冷めてから味が馴染む料理なので、作りたてより翌日・翌々日が断然美味しい。月曜に作って木曜のお弁当に入れると、なぜかその日だけ「今日のお弁当なんか美味しかった」と言われる。
電子レンジ:ブロッコリーの塩蒸し(所要時間 約5分)
ブロッコリーを耐熱容器に入れ、水大さじ2をかけてふんわりラップ。600Wで3分加熱。取り出したら塩をひとふりして完成。
シンプルすぎて拍子抜けするけど、これがお弁当の「緑の彩り」として毎週確実に機能する。マヨネーズを別の小容器に入れて添えると、子どもがモリモリ食べるようになった。苦手だったブロッコリーが気づいたらレギュラーになっていた。
60〜90分:オーブン仕上げと保存作業
タイマーが鳴ったらオーブンからさつまいもを取り出す。竹串を刺してスッと通れば正解。通らなければ5分追加。
熱いうちに皮を剥いてボウルに入れ、フォークでつぶす。バター5g・塩少々を加えてよく混ぜ、粗熱が取れたらラップで一口大(1個あたり30〜40g)に丸めて成形する。子どもの手のひらに収まるサイズが目安。お弁当に入れると先になくなっているやつだ。
残り30分は冷却と保存容器への移し替えに使う。給食センターでは「10℃以下まで急冷してから保存」が絶対ルールだったが、家庭では「粗熱が完全に取れてから蓋をする」で十分。熱いまま容器に入れると蓋に水滴がついて雑菌が増えやすくなる。これだけは給食センターと同じで守る。
保存容器はロック付きの正方形・長方形を統一しておくと冷蔵庫内で積み重ねられて省スペースになる。100均で形を揃えると見た目もすっきりする。
作り置き5品の保存期間と平日の使い方
- 鶏の甘辛煮:冷蔵4日 / メインのたんぱく質として。生姜をひとかけ加えると大人向けになる
- ほうれん草のおかか和え:冷蔵3日 / 緑の副菜として。ごまを足してもいい
- 玉ねぎのカレーマリネ:冷蔵5日 / 箸休めとして。パプリカを加えると彩りが増す
- ブロッコリーの塩蒸し:冷蔵3日 / 緑の彩りとして。火曜以降に回すと鮮度が保ちやすい
- さつまいもポテト:冷蔵3日・冷凍1ヶ月 / 子どもが喜ぶ一品。黒ごまを混ぜると見た目が映える
平日の朝はご飯を詰めて、この5品から3〜4品を選んでのせるだけ。卵焼きを1品だけ朝に焼けばお弁当として十分に見える。慣れれば朝の準備は15分以内に収まる。最初の週、妻に「なんかプロみたい」と言われた。ぼくのことじゃなくてお弁当の話だけど、それでも嬉しかった。
並行作業を安定させる3つのポイント
1. タイムラインをメモに書いてから始める
最初の失敗の根本原因のひとつが「頭の中だけで段取りを管理しようとした」ことだった。給食センターでは調理前に必ず黒板に工程表を書いてから始める。家庭でも冷蔵庫にA4の紙を貼っておくだけで中断が激減する。「0分:仕込み→10分:オーブン→15分:コンロ+レンジ→30分:フライパン使い回し→60分:オーブン仕上げ」の5行で十分だ。
2. 加熱時間の長いものから先に動かす
今回のレシピで言えば、オーブン料理(25〜30分)→煮物(10分)→炒め物(8分)→レンジ(3分)の順で優先度が高い。これを逆にすると待ち時間が増えて2時間に収まらなくなる。「一番時間がかかるものを最初に仕掛ける」この順序感覚が身につくと、どんな作り置きにも応用できる。
3. 洗い物は全品完成後にまとめてやる
途中でシンクに立つと、確実に流れが止まる。調理中は使ったボウルやまな板をコンロ脇に寄せておき、5品全部が冷却に入ってからまとめて洗う。実際に試すと、まとめて洗ったほうが水道の使用量も時間も少なくて済む。センターでも途中の洗い物は最小限にして、流し台は調理後にまとめてリセットするのが基本だった。
このタイムラインで2〜3回作ると、自然と余裕が出てくる。そこで試してほしいのが「1品だけ替える」という週次バリエーション。ほうれん草をなすに替えて「なすのめんつゆ浸し」にする週、鶏もも肉をサーモンに替えてしょうゆバター蒸しにする週。レギュラーの4品はそのままで、1品だけ変えれば食べ飽きない。さつまいもポテトは成形後に冷凍すると1ヶ月保存できるので、週によっては先週の冷凍在庫を解凍するだけでもいい。
4月のお弁当作り、最初は3品でもいい。まずこのタイムラインで「オーブン→コンロ→レンジ」の並行作業だけを意識して動いてみてほしい。その感覚がつかめれば、自然と5品に増やせるようになる。


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