「通知200件、全部確認してるから問題なし」な編集部日誌

Young creative team discussing project ideas in a modern office setting. 編集部コラム
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「スマホ8000枚時代の実話がそのまま記事になっちゃった!」

月曜の朝イチ、ミズキが席で画面を見ながら大興奮していた。先週公開した自分の体験談コラムが、想定外の反響を呼んでいるらしい。「コメントに『私もそうです』って10件来てる。やっぱり実体験って強い!」

私はコーヒーを一口飲んでから言った。「自慢話じゃなくて、読者の悩みを代弁してるからだよ。ギリギリOKだったけどね。」

あの記事、初稿は「私のスマホ、すごくないですか?」という空気がにじみ出ていて、一度突き返したやつだ。ミズキが渋々直して、ようやく「あるある共感系」に着地した。それが今になって伸びているのだから、編集ってこういうものだよなと思う。

「実体験で書きます」宣言の、落とし穴

調子に乗ったミズキは、午後の打ち合わせでさっそく「次も実体験ベースで書きます!」と高らかに宣言した。テーマはスマホのホーム画面整理術。それなら説得力あるじゃないかと思っていたら、「参考に見せます」と言ってコウタにスマホを手渡した。

コウタが画面をスクロールしながら固まる。

「……これ、何ページ目?」

「5ページあります。でも全部把握してるんで。」

ハルがそっとお茶を置いて、笑顔のまま言った。「ミズキさん、まずそこから直しましょう。」

オフィスに笑い声が広がった。私も笑いながら、内心「このエピソード、絶対使える」と思っていた。「整理しながら書いた」という過程そのものが記事になるのは、確かに強い。失敗談って、きれいな成功談より何倍も読まれる。

通知200件「全部確認してるから問題なし」問題

翌日、スマホ通知の記事の初稿が上がってきた。読んでいたら気になる一文があった。「通知は溜めずにこまめに確認しましょう」。

私はチャットで送った。「ちなみにミズキ、今、通知何件ある?」

しばらく間があって、「……200件くらいです。でも全部確認してるから問題ないです!」と返ってきた。

「それが一番の問題だよ。」

「え、確認してるのに?」

「溜まってる時点で、リアルタイムに対応できてない証拠じゃん。」

そこから夕方まで粘り強く説得した。「自分がそうだったから気づいた」という構成に直してもらって、ようやく記事らしくなった。渋々感が文章ににじんでいるのはご愛嬌だけど、あの抵抗感こそが読者の本音な気がして、私はほぼそのままGOを出した。

カメラロール2万8千枚という告白

水曜日。カメラロール整理の記事を書くにあたって、ミズキがまた「実体験ベースで」と言い出した。これはもう毎回恒例になってきた。

「参考までに——私のカメラロール、2万8千枚あります。」

沈黙。

ハルが紅茶のカップをそっとテーブルに戻しながら、表情一つ変えずに言った。「それは記事を書く前に整理してください。」

「いや、だからこれが実体験になるんです!ここから整理する過程を——」

「整理が終わったら、記事を書いてください。」

ミズキが珍しく口をつぐんだ。私も何も言えなかった。2万8千枚は、さすがに多い。

ミズキはその後3日かけてカメラロールを1万2千枚まで削減して、記事は予定より1週間遅れで上がってきた。でも内容は、ものすごくリアルだった。「削除できない写真の基準」の項目に「ブレててもその日の気持ちを覚えてる写真は残す」という一文があって、私は思わず声に出して読んだ。これ、ハウツーじゃなくて、もはや随筆だ。

タケルの段取り理論、今週も暴走する

ミズキが大変だった週、タケルはタケルで絶好調だった。

給食センター時代の段取り術を記事に活かしているタケルだけど、その応用範囲がどんどん広がっている。今週は「ファイルの名前付けルール」の打ち合わせで力説していた。「給食センターって、作業台ごとに担当が決まってて、誰でも引き継げるようにラベルが貼ってあるんですよ。それってファイル名でも同じで——」

「なるほどね。でも『おはじきの段取り八分』ってサブタイトルはさすがに笑ったよ。」

ハルが珍しく吹き出した。「初稿で見たとき、一瞬時が止まりました。」

タケル本人は「わかりやすくないですか?」と至って真剣なので、みんなで笑いながらタイトルだけ直した。でも冒頭に入れた「3時間半の仕込みが、5分の配膳ミスで崩れる」というエピソードは鳥肌が立った。「これ、絶対入れて」と私が言ったら、タケルが「そこ一番好きなんですよ」と嬉しそうにしていた。

翌日の花粉症対策記事の打ち合わせで、タケルが唐突に言い出した。「これも給食センターの段取り理論、そのまま使えるじゃないですか。」

「……どういうこと?」

「仕込みを前倒しにするっていう考え方が、花粉が飛び始める前から薬を飲んでおく、と完全に一致してるんです。」

私は5秒考えて「採用」と言った。ハルが薬の服用タイミングについて医療情報を丁寧に確認してくれて、記事の信頼度がぐっと上がった。タケルの段取り理論、守備範囲が広すぎる。

「99%」とフリース集塵機と、深夜2時の試食

週後半は、ミズキとハルの小競り合いが続いた。

行政手続きのオンライン化記事で、ミズキが「自宅で完結できる手続きが99%に!」と書いてきたとき、ハルがすかさず赤を入れた。「免許証の更新は窓口が必須ですよ。」

「だから99%って書いてるんです!」

「……それは正しいですが、読者が免許証を更新しようとして窓口に行ったら困りますよね。」

「注釈を入れます!」

この問答を聞きながら、私は苦笑いでGOを出した。ミズキとハルの攻防が、結果的に記事の精度を上げているのは確かなので、基本的に止めないことにしている。

翌日のコートの手入れ記事では、ミズキが「フリースって要するに集塵機ですよね?」と言い出して、ハルが「表現……」と渋い顔をした。「その感覚が読者に刺さるんだよ」とフォローして、表現を少し柔らかくした上でそのまま使った。刺さる言葉って、たいていどこかで誰かが「それは…」ってなる言葉だと思っている。

そして木曜深夜、タケルから「3品全部試食しました」というチャットが届いた。時刻は2時4分だった。

翌朝「全部食べたの?」と一言送ったら、「お腹の限界まで食べましたが記事の精度は上がりました」と返ってきた。ハルが「子育て中のお父さんの胃袋じゃないですね……」と呟いて、コウタが「さすがタケルさん」と謎のリスペクトを寄せていた。記事は朝に上がってきた。レシピの実用性が細かく検証されていて、深夜2時の試食は伊達じゃなかった。

引き継ぎテンプレを3回作り直したのは誰?

金曜の夕方。引き継ぎ書の作り方記事の打ち合わせで、ミズキが唐突に言った。「私、引き継ぎテンプレ、前職で3回作り直したんですよね。」

「なんで3回も?」

「最初のやつは自分しか使えなくて、次のやつは情報が多すぎて誰も読まなくて、3回目でようやくちゃんとしたのができたんです。」

みんな興味深そうに聞いていた。そこへハルが静かに言った。「その3回分のテンプレ、引き継ぎ資料の中に入れましたか?」

「……え?」

「次の担当者が同じ失敗をしないためには、失敗の記録こそ引き継がないといけないのでは、という意味ですが。」

ミズキが固まった。「……それ引き継ぎ漏れですか、私。」「はい。」

この会話、そのまま記事の冒頭に使えると私は思って、ミズキに「導入これで書いて」と即決した。ミズキは複雑そうな顔をしていたけど、自分の失敗を記事にするのが一番強いのは、今週だけで何度も証明されていた。

この編集部にいると、誰かの「しくじり」がそのまま誰かの「気づき」になる瞬間が、週に何度もある。2万8千枚のカメラロールも、通知200件も、深夜2時の試食も、全部そこに転がっている。

私はそれを見ているのが、密かに一番好きな時間だったりする。

今週もサウナ行けなかった。来週こそ。

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