ミズキが「ホーム画面、一生整理できないんだよね」と言い出したのは、月曜の朝10時ごろだった。
コーヒーが冷める前に原稿を1本片付けようとしていた私の横で、ミズキはスマホを眺めながら盛大にため息をついていた。画面を見せてもらったら、フォルダが多い。多すぎる。「雑多」というフォルダの中に「その他」があって、その中に「色々」というフォルダがあった。
「それ記事にしなよ」と私が即座に言ったら、ミズキは「え、これが?」と目を丸くした。ハルが「フォルダ多すぎるの草」と言いながらクスクス笑ってて、珍しいなと思った。ハルが「草」って言うの、月に1回あるかないかだから。
こういうことが、今週は毎日起きた。
「それ投資やで」の一言で世界が変わった(らしい)
先週末、ミズキが「ネットスーパーの初期設定に1時間半かかった」と愚痴りはじめたとき、コウタが一言「それ投資やで」と返した。それだけ。フォローも解説もなし。でもミズキはなぜか「たしかに!」と納得して、翌週から週1回のまとめ買いを実現させた。
コウタってたまにこういう、短すぎる言葉でものごとを解決するんだよね。ハルはそのやりとりを聞きながら「投資という言葉は便利に使われすぎる傾向がありますが……まあ今回は合ってますね」と言っていた。ハルなりの最大限の賛辞だと思う。
ただ、翌週にミズキがネットスーパーを使いはじめてから1週間後、ハルが穏やかな顔で「ミズキさん、カートに冷しゃぶが毎週入ってますが、栄養偏ってませんか」と指摘した。ミズキは「……見てたんですか?」と少し引いていたけど、ハルは「レシピのバリエーションを5つ持っておくと献立が楽になりますよ」と続けた。本当にこの人は抜け目がない。
ミズキは冷しゃぶを週1に減らして、他4品を追加することにしたらしい。それはそれで記事になりそうだった。「それ記事にしなよ」とは言わなかったけど、心の中で思った。
片手で耳を引っ張る新米パパの説得力
水曜のミーティングで「耳ひっぱりの記事どうする」という議題が上がったとき、私は正直ちょっと迷っていた。
「耳ひっぱりって怪しくない?」というのが率直な感想で、そう口に出したら、タケルがいきなり立ち上がった。「息子を片手に抱えながらでもできます、ほら」と言いながら、左腕に何かを抱いてる風の姿勢で右手で耳を引っ張りはじめた。赤ちゃんはいないのに。でもリアリティがあった。
タケル、子ども生まれてから「片手でできるか否か」が行動基準になっているのが編集部にひしひしと伝わってきてる。「これ片手でいけます」「これは両手いる」って毎日言ってる。そのフィルター、読者的にはめちゃくちゃ役立つんだよね。
ハルがそのタイミングで「内耳刺激に関する研究文献がいくつかあるので、掲載すれば信頼性が上がります」と静かに一言添えた。採用決定。あの流れ、3分もかかってない。
タケルが「うちでもやってみたんだけど、妻にも試してもらったら好評で」と言い出したのはそのあとの話で、「それも書いといて」と私が言ったら「え、育児エピソードも入れていいんですか」と嬉しそうな顔をしてた。入れていい、むしろ入れて。
「5分以下」の一言と、3段落カットの攻防
木曜は、ミズキがネットスーパーの記事を書いてきた。
「お気に入り機能を使いこなせば、カートに入れる時間が5分以下になる」という一文があって、コウタがすかさず「数字が具体的でSEO的にも◎ですね!」と声を上げた。コウタはSEOの話になると目が輝く。それは本当に毎回そう。ハルはその横でそっと「表現が正確かどうかは確認します」と言っていた。チームバランス、完璧すぎる。
私が最終確認したときに「ズボラ感が出てて最高」と言ったら、ミズキが「褒めてますよね?」と確認してきた。もちろん褒めてる。この編集部の記事、ズボラ感が出てないと嘘になるから。
ただ、同じ記事の導入部分は一悶着あった。「乳幼児連れの買い物つらすぎ!」というテーマでミズキが熱くなりすぎて、導入だけで3段落も書いてきたのだ。私が「読者引きます」とダメ出しして2段落にカットした。ミズキは一瞬「え〜」という顔をしたけど、ハルが「数字が具体的で良いので、本文は活かせます」とフォローしたら素直に直してきた。ハルの一言、効く。
あと、この記事で初めてミズキが「うちも最初は夫のカレンダーが真っ白だった」という実体験を書いてきて、それが想像以上に刺さる一文だった。ハルが通知設定の手順を細かく確認して、私が「煽り口調は少し抑えて」と赤を入れながら完成した。編集部3人分の手が入った記事、やっぱり強い。
「本当に11個あったんですか?」を2回聞く人
金曜は消しゴムの話で編集部が少しざわついた。
ミズキが書いた「文具を断捨離したら消しゴムが11個出てきた」という体験談のくだりで、ハルが「本当に11個あったんですか?」と確認を入れた。ミズキが「はい!」と即答したのに、ハルはもう1回「……11個、ですね?」と聞いた。
なんで2回聞くの、とツッコんだら「事実確認は大切なので」とのこと。まあそれはそうなんだけど、ミズキは少し傷ついた顔をしていた。私が「事実なんでしょ、GO」とまとめたら、その場がようやく前に進んだ。
ハルの校閲が厳しいのは編集部の財産なんだけど、たまにミズキのテンションをそのまま持続させてあげたいとも思う。消しゴム11個の話、読者は絶対笑うから。
同じ日、タケルが「給食の発注リストみたいな感じで書いたら超スッキリした」と言いながら買い物リスト記事の構成を見せてきた。私は「それ天才かも」と即GOを出した。本当にスッキリしてた。給食センター出身、侮れない。ハルはそのあと「ランドセルの相場感が古いです」と一箇所だけ指摘した。一箇所だけ、っていうのがポイントで、ハルが「一箇所だけ」しか言わない原稿は完成度が高い証拠だと私は勝手に思っている。
ちなみにタケル、その記事を書くときに「給食の仕込みと一緒で、まとめてやれば10分で終わる」と熱弁していた。ハルが穏やかに「その10分、毎週できてますか?」と突っ込んだら、タケルが一瞬フリーズした。私が「まあ、できる人もいるってことで」と助け舟を出して事なきを得た。そういうフォロー、週に何回やってるかな。
プロンプトを公開したら負け、は本当?
週の終わりに、珍しくミズキが少し頑固なことを言い出した。
AI活用の記事で、自分が使ってるプロンプトを公開するかどうかという話になったとき「真似されたくない」と言い張ったのだ。私は「真似されてなんぼでしょ」と一蹴した。そういうコンテンツに価値があるんだから。
そしたらハルが静かに「……それが目的では」と言った。ミズキはしばらく黙って、「そっか、役に立つのが目的か」とつぶやいた。
この編集部、ときどきハルの一言が一番刺さる。
タケルは「うちでもやってみたんだけど、プロンプト共有したら妻にも使ってもらえるようになって」と言い出した。そういう体験談、それこそ記事になるやつ。「それ記事にしなよ」って言ったら、タケルは「え、俺も?」と驚いた顔をした。
そう、全員記事になる。この編集部にいると、そういう目線が染みついてくる。ミズキのホーム画面も、消しゴム11個も、片手で耳を引っ張るタケルも、全部誰かの「あるある」になる。ハルの「本当に11個ですか」という確認さえも、いつか使える気がしてる。
また来週も、なんか面白いことが起きるんだろうな。
コーヒー飲み終わる前に、たぶん。

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