給食センター出身ライターが編集部をかき乱した週

Three young people working on computers in a creative office with vibrant graffiti walls. 編集部コラム
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「給食センターのネタ、入れていい?」

タケルがSlackじゃなくて直接声かけてきたのって、珍しいな、と思ったんですよ。いつもは「rin_sanちょっといいですか」ってメッセージが先に来て、それからZoomになる流れ。なのに今日はデスクまで来た。しかも若干うかがうような顔で。

「健康記事に給食センター……関係あるっけ?」

正直、最初の5秒は首をひねりました。時短ラボって「忙しい人向けの時短術・健康情報」がコアテーマで、給食センターという単語からイメージするのって「大量調理」「業務用」「学校」みたいな方向。それが読者に刺さるのか、というのが率直な疑問だった。

でもタケルが話しはじめたのを聞いて、3分もしないうちに「いや、これ絶対いける」ってなったんですよね。

「段取り」という言葉が出た瞬間、全部つながった

タケルは元給食センターの調理師で、今はライターとして編集部にいるんですが、あの人の「段取り力」って本当に異次元なんですよ。「朝6時に300人分のポタージュを仕上げるには、前日の何時から何をどの順番でやるか」みたいな逆算思考が、骨の髄まで染み込んでいる。

「給食センターって、時間内に全部仕上げないといけないじゃないですか。段取りを一個外したら終わりで、誰かのお昼ごはんがなくなる。それって時短の本質と一緒だと思って」

言われた瞬間、「あ、そういうことか」ってなりました。給食の話をするんじゃなくて、給食センターで培った段取り論を時短に応用する、という切り口。コンビニで280円で買った経口補水液の話まで持ち込んできて、「夏場の水分補給も仕込みのうちだと思ってて」とか言うんですよ。

ハルが「また自腹エピソードですか」と小声で言ったのが聞こえたけど、私はもうGOを出していました。

「いいじゃん、使えるよ。見出し案3本持ってきて」

承認まで8分。我ながら速い。

「ウルトラディアンリズム、確認しましたか?」が飛んできた午後3時

翌日、タケルが持ってきた原稿をハルが読んで、静かに手を挙げた。

「タケルさん。ここの『ウルトラディアンリズムに合わせた仕事術』という記述ですが……確認しましたか?」

タケルの顔が「あ」になった。私はコーヒーを飲んでいたんですが、カップを置くタイミングが来なかった。

ウルトラディアンリズム。90分周期で繰り返される人間の活動リズムのことで、「90分集中→20分休憩」が理想とされている話。タケルが給食の段取り論に絡めて引用したやつです。

「調べたんですけど……詳細はちょっと自信が」

「一緒に確認しましょう」

ハルがそう言うと、二人でそれぞれスマホを出してその場で検索しはじめた。午後3時の編集部って、独特のまどろみがあるんですよ。コウタのキーボードの音と、外から微かに聞こえる車の音と、誰かが淹れたお茶の匂い。そこに「……90分、合ってる」「こっちの論文では別の書き方してる」という声が聞こえてくる。

結果的にほぼ合っていたんですが、ハルが「出典を本文に一行添えましょう」と提案して、タケルが「ここに入れます」と即対応した。このやりとりが編集部のクオリティラインを保っているというのは、いつも思うことです。ハルがいなかったら、私たちはもっとふわっとした記事を出し続けていた。

「フォルダ名、全部絵文字にしてる」攻防・90分の記録

同じ週に起きたミズキ案件が、また別の意味で濃かった。

「私、フォルダ名、全部絵文字にしてるんですよ。🍎が記事素材、📦が校了済み、⚡が急ぎ案件。視認性が全然違くて」

昼のミーティング中にミズキが言い出したとき、最初は「へえ、面白いね」って思ったんですよ。ガジェット好きで自称・ズボラの天才のミズキらしい話だなって。でもすぐにハルが静かに手を挙げた。

「……絵文字フォルダ、校閲ができません」

コウタも続く。

「SEOのファイル命名規則的にも、絵文字は厳しいと思うんですよね」

二重否定。同時着弾。

ミズキはひるまなかった。「いや、でも視認性の話をしてて」「個人フォルダならいいじゃないですか」「そもそも共有フォルダの話はしてないです」と反論を重ねて、結局その議題だけで90分消えた。コウタが途中で「お茶飲んできます」と言って逃げたのが見えた。

最終的な裁定は「個人の作業フォルダは自由。共有フォルダは命名規則に従う」。当たり前の結論なんですが、そこに至るまでのプロセスが長い。ミズキはそういう人なんですよね。「なぜダメなのか」を自分の中で消化するまで引き下がらない。

嫌いじゃないです、そういうとこ。

「子供が生まれてから睡眠が」——タケルが熱弁した夜

睡眠の記事を仕上げる日、タケルが珍しく熱を帯びた話し方をしていた。

「去年子供が生まれてから、睡眠の大事さの実感が全然違くなって。夜中3回起きながら翌朝仕事するのを繰り返すと、人間って本当にやばいな、ってわかるんですよ」

これは刺さる、と即座に思いました。睡眠不足の話って抽象的に語られることが多いけど、「夜中3回起きながら翌朝仕事する」という具体性が、読む人の身体に届く。「睡眠は大事」という話じゃなくて、「夜中に泣く子供を3回あやして、それでも朝7時に起きて給食センターの段取りで一日を組み立てた男の話」になる。

ハルが「数値の根拠は」と確認して、コウタが見出しを調整して、私が「これいける、このまま」と言って通した。チームのいい日の動き方です。ぴったりはまったときの感覚がある。

ちなみにその直後、タケルが「離乳食も同じ段取りで作れるって気づいて、それも書いていいですか」と言い出したんですが、私は即座に言いました。

「それ別記事」

タケルが少し残念そうな顔をしたのが、正直ちょっとかわいかった。ネタとしては面白いんですよ。いつか使う日が来るかもしれない。でも今日の記事には入れない。それだけの話。

ミズキの「873枚」が、今週一番いい冒頭になった

週の後半、ミズキが何気なく言ったんですよ。

「スマホのスクリーンショット、私873枚あるんですよ。溜まりすぎて整理できなくて」

ハルが顔を上げた。

「その数字、どこから?」

「なんとなく……あ、じゃあ今数えます」

ミズキが本当にその場でスマホのアルバムを開いて数えはじめた。編集部がしずかになって、コウタが「えっ今数えてんの」と言って、ハルが紅茶を一口飲んで、タケルがそっと自分のスマホを裏返した(たぶん自分のスクショ枚数を確認していた)。

「876枚でした」

3枚の誤差。ほぼ正確。

私は「それ、そのまま記事の冒頭に使って」と言いました。「スマホに876枚のスクリーンショットが溜まっていた。気づいたのは昨日の夜だ」みたいな書き出し、めちゃくちゃいいじゃないですか。数字が生きてる。体験が生きてる。

ミズキが続けて「牛乳3本、冷蔵庫に溜まったのも実話なんですよ」と言い出したとき、またハルが「それは誇張では?」と疑って、ミズキが「去年の3月に絶対起きました、なんなら写真ある」と言い張って、私が「実体験なら載せていい」と裁定を下した。私の仕事のうち何割かは「これ実話?」の判定だと、最近しみじみ思います。

ちなみにミズキの新大阪エピソード——「同じ体験を3年連続でした」という件については、ハルが「事実確認が必要では」と言ったのに対して私が「3回で十分リアル、通せ」と裁定しました。これは今も正しかったと思っています。リアルっていうのは、正確さだけで担保されるものじゃない。体験の手触りが大事なんです。

ミズキのカスタマーサポート時代の自慢話が長くなりすぎて「それ3回目だよ」と言いながら削ったのも、今週の出来事でした。でもエッセンスだけ残したら、ちゃんと一本の記事になった。ミズキはそういう人で、長く話すから削れる。最初から短い人間の話には、たいていなにもない。

来週も、たぶん、こんな感じです。

ハルがまた誰かの数字を疑って、ミズキがまた何かを絵文字にしようとして、タケルがまた自腹で買ったものを持ち込んで、コウタが「これ最高じゃないですか」と言う。私はたぶん8分以内にGOかNGを出す。

それが時短ラボ編集部の1週間です。

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