うちの編集部、今週も大体ハルのせいです

A group of people discussing ideas around laptops in a bright, modern office space. 編集部コラム
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人類の95%って根拠どこ?

火曜の午後3時、ハルのメッセージがSlackに飛んできた。ミズキが2時間かけて仕上げた原稿への、最初のフィードバックがこれだった。

「わたし調べって書いてあるじゃないですか!」とミズキが言い返す声が、デスク越しに聞こえてきた。私はコーヒーを飲みながら、静かに見守ることにした。あれは二人に任せるしかない案件だ。

「わたし調べ」は免罪符じゃなかった

ミズキが書いていたのは、スマホの通知を減らす時短術の記事だった。「現代人の集中力は平均8秒、人類の95%がスマホの通知に反応してしまう」という一文を、流れのなかに自然に入れていた。根拠? ない。ソース? 不明。ミズキいわく「なんか読んだことある気がする数字」だったらしい。

ハルが「根拠どこ?」と聞く。ミズキが「わたし調べって書いてあるじゃないですか!」と返す。ハルが「それは免罪符じゃないんですよ」とひと言添える。

編集部が爆笑した、というのは話を盛りすぎかもしれないけど、私は確かに吹き出してしまった。「わたし調べ」って言葉のセンス、天才的だと思う。ただ通じないことだけは確かだ。

ハル(41歳・元国会図書館司書)は、数字の根拠、医学用語の正確さ、情報の鮮度、どこかに穴があると必ず止まる。ブレーキっていうより、交通整理員みたいな存在。記事を書くたびにどこかで一回は赤信号が出る。それが今週は特に多かった。

タケルの鶏肉で15分ロストした話

同じ週、タケルの「料理の段取りで家事時間を削る」という原稿はすんなり通った。読み始めてから5分で私がGOを出した。「段取りの話、面白い」と思ったのが正直な感想で、タケルは元給食センターの調理師だけあってこの系統の記事は本当に強い。

ただ、補足説明を聞いていたらハルが動いた。

「炊飯器の保温機能で鶏肉を低温調理すると神なんですよ」とタケルが言い出した瞬間だった。

「タケルさん、それ本当に安全ですか?」

タケルが「うちでもやってみたんだけど、全然いけますよ」と返す。ハルが「保温温度は機種によって違いますし、鶏肉の低温調理は加熱温度が命なんですよ」と続ける。タケルが「でも実際に……」と言いかけたところで、二人は食品衛生の話に突入していった。

15分後、私は「GO出せないよ!」とSlackを打っていた。

炊飯器の鶏肉の一節はボツになり、より安全な食材で書き直すことになった。タケルは「正直悔しい」と言っていたけど、ハルが止めなかったら読者に不安を与える記事になっていた。これは完全にハルが正しかった。……認めたくないけど、そう。

同じ週、別の原稿でタケルが「胃腸は第二の心臓」と書いたら「それ医学用語じゃないですよ」とハルに赤字を入れられて、タケルが少し焦っていた。今週のタケル、受難が続いた。

「飲む点滴」と甘酒の攻防

甘酒の記事でも揉めた。

タケルが栄養補給系の記事で甘酒を推していたんだけど、「これって冬のイメージじゃないですか」と自分でブレーキを踏み始めた。「今の季節に甘酒って、読者に刺さらない気がして」と言う。

私は「コンビニで冷やして売ってるから大丈夫」と押し切った。ひんやり系の角度にすれば、むしろ今の季節のほうが刺さる。タケルが「あ、確かに」と納得したところで話が進んだ。

ただ、そこにハルが「飲む点滴って書かないでください」とひと言。

「医療行為っぽい表現で誤解を招くので」と続ける。

タケルと私、同時に「あ〜〜〜」と声に出した。わかる。なんとなくキャッチーだから使いたくなるんだよ、飲む点滴。でもアウトはアウト。すっかり定着した言葉でも、ハルの前では関係ない。

Googleフォトとスクショ問題の長い一日

ミズキの話に戻ると、今週はGoogleフォト事件もあった。

写真整理の効率化記事をミズキがサクッと仕上げてきたとき、ハルが「Googleフォトの無制限終了、書いてないじゃん」と即ダメ出しをした。Googleフォトが2021年に無制限ストレージを終了しているのに、それを前提にした説明になっていたらしい。

私が苦笑いしながら「ミズキ、情報の鮮度確認して」と仲裁に入った。ミズキはやや不服そうだったけど、これは明確に抜けていた情報だ。

同じ日に「スクショ絶対必要!」問題も起きた。スマホ設定の手順記事でミズキが「画面を見せないと伝わらない」と主張した。ハルが「OSのバージョンで画面が変わるから事実誤認になる」と一刀両断する。ミズキが「でも文章だけじゃわかりにくくないですか!?」と食い下がる。

私が「ハルの言う通りにして」と裁いて終わった。

「設定5分で終わる」という記述もこの週に引っかかっていて、ハルが「Wi-Fi設定の説明が抜けてますよ」と指摘し、私が「それも含めたら15分でしょ」とまとめた。ミズキ、今週の通過率が本当に低かった。

でも一番いい仕事もミズキだった

ただ、今週一番「やるじゃん」と思ったのもミズキだった。

ネットスーパーを活用する記事のなかで、「注文前に冷蔵庫の中身を写真で撮ってから開く」というTIPSを入れてきた。

読んだ瞬間、私が「え、それ私も今夜やる」と声に出してしまった。冷蔵庫の中身って、ネットスーパーを開いた瞬間に忘れるんだよね。醤油あったっけ、卵どのくらい残ってたっけ、と悩みながら「とりあえず入れておこう」をやり続けて、気づいたら同じものが2個届いてる、あのやつ。

「注文前に写真を撮る」はシンプルだけど、言われないと絶対やらない。そういうTIPSが一番強い。本気で感心した。

「朝のSNS時間38分」という自分の失敗談を原稿に入れると言い出したときは、最初渋い顔をした。自分の失敗を堂々と書くのって、信頼を失いそうな気がして。でもミズキが「読者に刺さるから絶対いる」と言い張って、私がOKを出した。結果として、そのリアルな数字が原稿の中で一番ダイレクトに響く部分になっていた。38分、という具体性が効いていた。ミズキの直感、あながち外れてない。

「1週間全通知オフにしたら禁断症状がヤバかった」という実体験も今週ミズキから聞いた。私が即「それ絶対記事にして」と言ったら、ハルが「集中力23分持続のデータ、ソースちゃんと出して」と釘を刺した。いつも通りだ。

禁断症状エピソード、来週書いてもらうのが楽しみだ。ただし「わたし調べ」は禁止で。

今週も色々あった。ハルのおかげで原稿は何度も止まったけど、だからこそちゃんとした記事になった。「根拠どこ?」「それ安全ですか?」「飲む点滴は禁止」——この3つで、うちの編集部はだいたい回っている気がする。

私はまた今夜、冷蔵庫の写真を撮りながらそう思うのだろう。

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