「地味」から始まった、全員やらかした一週間

A group of people discussing ideas around laptops in a bright, modern office space. 編集部コラム
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「タイマー共有って、地味じゃないですか?」

ミズキがそう言ったのは、週頭の打ち合わせが始まって5分も経たないころだった。窓から差し込む夏の光がやたら眩しくて、エアコンの風がちょっと強すぎて、私はコーヒーを二口飲んだところだった。

ハルが顔を上げた。いや、正確には上げなかった。紅茶のカップを両手で包みながら、視線だけを手元の原稿に落としたまま、静かに答えた。

「でも効果は地味じゃないよ」

ミズキが「……」とフリーズした。コウタが苦笑いしながら私を見た。私も苦笑いした。今週もこういう感じか、と思いながら、コーヒーを三口目飲んだ。

「地味」と言い出したのは誰だったっけ

タイマー共有の記事は、ミズキが担当だった。「調理中に手が離せないときでも、家族とタイマーを共有して段取りを合わせる」という切り口で、実際に試した体験レポートをまとめるはずだった。

「でも見た目が地味なんですよ。スクリーンショット貼っても映えないし、動きがないし」

ミズキの悩みはそこだった。なら動画で撮ればいいんじゃないか、タイムラプスとかどうか、そういうことを言い出して、下書きが一気に暴走し始めた。

「この手順、動画で撮りたいんですよね。スクショよりぜったいわかりやすいし、臨場感も出るし——」

コウタが即座に言った。「記事に動画は貼れません」

全力のツッコミだった。普段はハルの指摘にビクビクしているコウタが、珍しく声のトーンを上げた。ミズキが「えっそうなんですか」と固まって、コウタが「WordPressの仕様上、外部動画の埋め込みは……」と説明し始めて、しばらくして着地した。

「じゃあLoomで録画して、外部リンクで貼るのは?」

諦めないミズキが次の手を出してきた。ハルが「あ、でもLoom、無料プランの制限が最近変わったかもしれないよ」と即指摘した。ミズキが「えっ」となって、こっそりパソコンを開いて確認して、こっそり注記を追加して事なきを得た。「こっそり」が多い人だな、とは思ったけど口には出さなかった。

結局、タイマー共有の記事はスクリーンショット+テキストで仕上げた。地味だけど、読みやすかった。ハルが「これで十分だよ」と言ったとき、ミズキが「……やっぱり地味ですよね」と呟いたのには笑った。一周した。

2回差し戻された話をしなければならない

問題はタイマー共有だけじゃなかった。ミズキの原稿を確認していたら、見慣れないセクションが増えていた。

「これ、定期便の話じゃないですよね」と私が聞いたら、ミズキが「あ、でも関連してると思って! このガジェット、タイマーと一緒に使うと最強で、デスク周りの配線もこうすれば——」と喋り始めた。

「テーマから外れてる!」

1回目は穏やかに言ったつもりだった。でも修正された原稿を確認したら、同じセクションがまだ残っていた。少し削ってあるけど、芯は抜けていなかった。

「テーマから外れてる!」

2回目は少し声に力が入った。ミズキがガジェット好きなのはわかってる。配線への愛情も知ってる。でも読者が求めているのは、ガジェット沼の入口じゃなくて、明日の夕飯に使える3分の工夫のほうだから。

2回目の指摘でようやく着地した。ミズキが「わかりました……」と言いながらも、どこか惜しそうな顔をしていた。その顔、私も昔はしてたんだよな、と思った。書きたいことと、読まれるもの。そのあいだで迷う感じ。

タケルの「給食センター理論」が今週も炸裂した

一方でタケルは、今週も別方向で私を驚かせてくれた。

夏バテ対策の時短ごはん、というテーマで原稿を上げる前に打ち合わせをしたとき、開口一番こう言った。

「実は、子どもが夏バテ気味で。それがきっかけで、給食センター時代の知識を掘り起こしてたんです」

私は3秒考えて言った。「それ最初から言えばよかった。タイトルが決まった」

タケルが「え、あ、そうですか」とちょっと照れながら笑った。本人にとってはただの前置きだったんだと思う。でも読者にとっては、「給食のプロが子育てしながら試した」という文脈こそが、いちばん刺さる入口だったりする。

原稿を読んだら、「給食の仕込みリストと同じ構造なんですよ」という一節が入っていた。ハルが珍しく「実体験ちゃんと入れてて好き」と言った。ハルが褒めるのは本当に月に1回あるかないかで、タケルが少し戸惑っていた。コウタが「珍しい!」と言ったらハルに睨まれた。

ただ、腱鞘炎の描写だけはやりすぎだった。「包丁を握るたびに激痛が走り、手首から肘にかけてしびれが……」みたいな一節があって、ハルが「ちょっと大げさじゃ?」と赤を入れた。タケルが「でも実際痛かったんですよ」と言ったら、ハルが「本当でも、読者が心配しすぎると本題に入れない」と静かに答えた。表現を少し和らげて、落ち着いた。

そのあとタケルが「洗濯物も含めて、夕飯の準備が1時間で終わった!」と報告してきたとき、ハルが間髪入れずに言った。

「お子さんの服のぶんは含まれてないですよね?」

タケルが「……あ」と言って遠い目をした。私も笑った。リンも思わず笑った。親の時短は、子どもの衣類まで含めないと計算が合わない。地味だけど、大事な指摘だった。

打ち合わせ中に4,200枚の告白があった

今週いちばんのハイライトは、たぶんこれだ。

iPhoneの写真整理についての記事を進めていたとき、ミズキが急に静かになった。何か考え込んでいるのかと思って放っておいたら、しばらくしておずおずと言い出した。

「……実は私のスマホ、今4,200枚あります」

全員が止まった。

コウタが「し、4,200枚」と繰り返した。ハルが紅茶を飲む手を止めた。私は3秒考えて言った。

「それ記事にすれば?」

ミズキが「えっ」と固まった。「でも恥ずかしいじゃないですか」と言うから「それが強みだよ」と返した。「……」「書いて」。そのやりとりがあって、ミズキは恥をさらしながら渾身の一本を書き上げた。

タイトルは「自称ズボラが4,200枚の写真を100枚まで減らした話」。原稿を読んだら、iPhoneのメモリー機能でBGM付きのスライドショーが自動で流れてきたとき、普通に泣いた、という一節があった。

ハルがそこに赤を入れた。「誇張表現は削除」

ミズキが「泣きそうになったのは本当なんですけど!」と抗議した。ハルが「本当でも、強調しすぎると読者が引く。感動の余韻は読者に作らせる」と静かに言った。ミズキが「……わかりました」と渋々直した。

完成した記事は、なかなかよかった。自分の恥をさらしながらも、「あ、私もそうかも」という共感を拾いにいく構造になっていて。体験談の説得力って、きれいなエピソードより、ちょっと情けないほうが出る、と改めて思った。

「地味」で終わらなかった一週間

「タイマー共有って地味じゃないですか?」から始まった一週間を振り返ってみると、全員ちゃんと何かをやらかして、ちゃんと直して、ちゃんと仕上げた。

ミズキは動画を諦めてLoomの制限を調べて、テーマを2回外れて、4,200枚の写真を晒して書いた。タケルは給食センター時代の話をタイトルにして、子どもの服の計算を忘れて、腱鞘炎の描写を和らげた。ハルはいつも通り正確で、たまに褒めて、誇張表現を削除した。コウタはWordPressの仕様を全力で教えた。

私は「テーマから外れてる!」を2回言った。次はもう少し穏やかに言えるといい、とは思っている。思っているだけかもしれない。

打ち合わせ終わりに、ミズキがぽつりと言った。「タイマー共有、実際に使ったら地味に便利でした」

ハルが紅茶を一口飲んで、また顔を上げずに言った。

「だから言ったでしょ、効果は地味じゃないって」

コウタが苦笑いした。私も苦笑いした。来週もたぶん、こういう感じだ。

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